「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」感想

どんな本?

タイトルからは、どんな本なのか想像つかない感じですよね。これは、オードリーの若林さんが書いたキューバ、モンゴル、アイスランドの旅行記です。旅行記と書きましたが、単に旅行に行ってこんなことしました、こんな物を見ましたという感じの本ではなく、各地へ旅行に行って若林さんが考えたことの方がメインって感じがしました。

感想

本の分量的に、キューバに行った話がかなりの部分を占めています。そのせいもあると思うんですが、若林さんのキューバに対する熱を強く感じます。ちょっとニュアンスは違うんですが、「深夜特急」の香港のところを読んだ時に感じが似ています。文章からキューバの暑さや人々の熱気のようなものが感じられました。そうかと思うと、そもそもキューバに行くきっかけとなったお父様との話になったり。私も父を亡くしたので、何か刺さるものがありました。私は若林さんのように父が大好きって訳でもなかったんですが、亡くなる少し前になって父に対する考え方が変わって、亡くなってからは色々とあったけど、何だかんだで父は私のことを考えてくれてたんだな、みたいな感じに思えるようになりました。だからこそ、「この世界に親父が充満しているのだ」という言葉がなんとなく理解できるような気がします。

モンゴル、アイスランドのパートも面白いは面白かったんですが、個人的にはキューバの熱さにちょっと押されているかなって感じがしてしまいました。モンゴルがとても合っていて、自分のルーツはモンゴルでは?って思ったからDNAを調べて見たら全然違ってたって言う話は「違うんかい!」って思ってちょっと面白かったですけど、アイスランドとかは記憶が曖昧なところもあるようで、キューバほどのインパクトはなかったのかな?って思いました。

海外に出ると、日本のことを普段とは違う目線で捉えられる気がします。自分がそれまで常識で、当たり前だと思っていたことが全然そうじゃなかったり、自分が物を見ている基準が日本での基準だということに気付かされたりします。

私は大学生の頃、ある会社のご厚意で1ヶ月ほど中国の工場を見学させていただいたことがあります。工場ではまだ10代の女の子達が一家の稼ぎ頭として働いていました。そのことにも驚きましたが、もっと驚いたのは工場内を案内してもらった時のことです。何か小さくて壁がなんかじめじめと湿っていてちょっと汚そうな小屋がありました。一緒に来ていた友人が案内してくれている人に「あれはトイレですか?」って聞きました。そしたら案内してくれた人はこう答えました。

「いいえ、あれはお風呂ですよ」

その小屋は、私達にはどう見てもお風呂なんかには見えませんでした。分からなかったとはいえ、とても失礼なことを聞いてしまい、なんとも言えない空気になりました。案内してくれている人の話によると、当時職員のためにきちんとした寮を建てようとしたら、現地の政府から「役人より良い寮を建てるな」というようなお達しが来て、良い環境を整えてあげられなかったのだということでした。そんなことがあるなんて、学生だった私達には想像もつかないことでした。もうあれから何年も経って、だんだんと記憶が薄れてきてしまいましたが、今でも強く印象に残っているのはこのことです。あの話で、日本ではそれほど強く感じたことのなかった「生まれてきた環境の違い」というものを強く感じました。

あれほどの貴重な経験はもうなかなかできないだろうけど、また機会があったら海外に行きたいな。あの学生のころから何年も年を経て、日本の外から日本を見たらどう思うんだろう。そんな気持を持たせてくれる本だったなと思います。

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